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EVシフトを支える充電インフラ整備の難しさ-胎動する次世代ビークルの世界-

月刊ITV 2021年6月号

発行:令和3年6月1日
発行所:(株)日新(HP)
執筆:大島春行・大西徳・伊藤慎介・井上元・岡雅夫・佐原輝夫・鈴木純子・中田信哉・西襄二・宮代陽之・谷田裕子
表紙・レイアウト:望月満
記事&編集:横路美亀雄・於久田幸雄

EVシフトを支える充電インフラ整備の難しさ

前回の記事ではワクチン接種の広がりとともに人の移動が徐々に回復し、“CASE第二章 ” としてモビリティ革命の第二幕が開かれようとしていることをお伝えしました。このCASE 第二章を裏付けるように最近ではCASE 分野におけるM&Aや上場が相次いでいます。
4 月 27 日にはライドシェアのLyft が自動運転部門をトヨタ系のWoven Planet Holdings に 5.5 億ドルで売却することが発表されました。Lyft と競合関係にある Uber は 2020 年 12 月に自社の自動運転部門である Advanced Technology Group をオーロラに売却していますので、結果的にライドシェア大手 2 社が自動運転から手を引いたことになります。
東南アジアのライドシェア大手の Grab が 4 月13日にSPAC による NASDAQ 上場を計画していることは前回お伝えしましたが、Grabと並ぶインドネシアのライドシェア大手のGoJek は 5 月 17 日にネット通販のTokopedia と合併すると発表しました。モビリティサービスが小売りと統合するという珍しいケースですが、Grab とGojekが違う道を歩み始めたことが将来的にどういう結果につながるのか楽しみです。

Gojekとtokopedia の合併により誕生した新会社 “goto”

また、 米国の e-scooter sharing の大手である Bird は 5 月 12 日に 23 億ドル= 約2500 億円の評価額にて SPAC によりニューヨーク証券取引所への上場を計画していると発表しました。危険走行、路上放置などによって様々な物議を醸す形でスタートしたe-scooter sharing が、規制強化、新型コロナウィルス拡大、大量解雇などの様々な難局を乗り越えて上場に至ったということは、電動キックボードという簡便な乗り物に対する社会受容性が認められたことの象徴だと感じています。日本では時速 15㎞以下を条件にヘルメット着用なしでの電動キックボードの利用が認められ始めましたが、実際に都内で見かけることはほとんどありません。このような日本の現状を目の当たりにすると、社会受容性の有無を検証する前に事業者が息切れしてしまうのではないかと心配になります。

5月12日にSPACによるニューヨーク証券取引所への上場を発表した Bird

CASE 第二章の幕開けとともに、CASE 第一章で誕生したプレイヤーの選択と集中が始まっている海外の動向を見ていると、インターネット黎明期を乗り越えた企業が GAF AM(Google Apple Facebook Amazon Microsoft)へと大成長を遂げたよう に、CASE 第二章において世界的な競争力を持つ巨大モビリティカンパニーへの誕生を予感します。その一方、日本ではそのような機運があまり感じられないことが非常に気になります。
さて、リードが少し長くなってしまいましたが、今回の胎動する次世代ビークルでは EV シフトを支える充電インフラ整備について取り上げたいと思います。過去に何度も挑戦されてきた充電インフラ整備ですが、“ 鶏と卵 ” の象徴的なケースであり様々な難しい問題をはらんでいます。海外の事例や論調などをご紹介しながらその難しさをご紹介したいと思います。

バイデン政権が雇用計画の一環としてEV 充電インフラ整備を推進

今年 3 月にアメリカのバイデン大統領は雇用計画の一環として電気自動車(EV)市場でアメリカ企業が競争に勝つために 1740 億ドル
(約 19 兆 2600 億円)を投資すると発表しました。2030 年までに全米に 50 万基の充電インフラを整備するとともに、原材料、電池などEV を製造するために必要となる国内サプライチェーンを構築するという内容です(図 1:バイデン大統領のスピーチ)。

図 1:3月31日にバイデン大統領が発表した雇用計画

4 月 22 日には電気自動車用充電インフラ整備に向けた具体的なプラン “Fact Sheet” が公表されました。その概要をご紹介します。

・今年 3 月に全米の公共充電器は 10 万台を突破
・大半の EV ユーザーは家庭または職場で充電するが、路上駐車している人や長距離走行する人には公共充電インフラが必要
・安価かつ利便性の高い強固な公共充電インフラが整備されることは、ドライバーに対して必要な時に充電ができるという安心感を与える
・バイデン大統領の雇用計画には 150 億ドルを投資して全米に 50 万基の充電ステーションを整備することが含まれているが、州、市町村、民間などの補助金や資金を活用して集合住宅、公共駐車場、道路網などへの充電イ

充電インフラの整備に合わせてエネルギー省による研究開発支援において以下の 3 つを進めていくとしています。

・EV の大量普及時代を想定し、直流急速充電に必要となる装置のコストを大幅に削減することを目的として 1000 万ドルの研究開発予算を計上
・商用分野への EV 導入の加速させるため、EV や充電インフラを地域主体で実験導入する際の予算として 2000 万ドルを計上
・家庭での充電が困難な地域に居住する住民を対象に、職場充電のためのインフラ整備や仕組み作りのために 400 万ドルを計上

また、Fact Sheet の公表と同時に、DOT(運輸省)から “ 高速道路における EV 充電インフラ整備のために活用できる連邦補助金” というタイトルの報告書が発表されました。この報告書にはDOT が執行している現行予算のうちEV 関係で使うことができるものがリスト化されています(図 2)。これらを合計すると 419 億ドルになるとのことで、新たに計上される予定の150 億ドルと合わせると約 520 億ドルの予算が EV 充電関連に充てられることになります。

図 2:米運輸省(DOT)が公表した EV 充電関係で使える現行予算のリスト

偏在し、見つけにくいという問題を抱えるアメリカの充電ステーション

ここからはアメリカの充電インフラについて解説していきたいと思います。さきほどの DOT の報告書によれば、テスラの Supercharger を除き全 米 に は 38,000 箇 所、79,000 口の公共充電ステーションがあり、そのうち急速充電に対応しているものは4,000 箇所未満、約 7,700 口あるとのことです。(図 3)は急速充電ステーションの設置個所を地図に示したもの岸及び東海岸北部に集中しており、中西部などにはほとんど設置されていません。

図 3:全米の急速充電器の設置個所(米国運輸省レポートより)

また、Pew Charitable Trusts というNGOの調査によると、充電ステーションが 4,000 箇所以上あるのはカリフォルニア州のみであり、他州を大きく引き離す 22,620 箇所もの充電ステーションがあります。一方 2,000
~ 4,000 箇所設置されているのはワシントン州、テキサス州、フロリダ州、ジョージア州、ニューヨーク州の 5 州のみであり、ノースダコタ州に至っては 36 箇所、アラスカ州はたった 26 箇所となっています(図 4)。
この調査を基にすると全米の約 1/ 3 の充電ステーションがカリフォルニア州に集中していることになります。

図 4:州別の充電ステーション設置数(出典:NGO 調査機関 Pew Charitable Trusts のHP より)

しかも公共充電器の多くは有料駐車場の中に設置されているなど容易に見つけられない、アクセスできないといった場所にあるようです。詳しくは後述しますが、そのためにテスラ以外の EV を保有しているユーザーにとって長距離走行する際に適切な経路充電(=途中で充電)ができないことが大きなストレスになっているようです。ちなみにテスラユーザーの場合はSupercharger という専用の充電ステーションが整備されており、テスラのナビを使うことで適切な経路充電ができるようです。

急速充電はどの程度 “ 急速 ” であるべきか?

では公共充電器の充電スピードについてはどうなっているのでしょうか(。図 5)は先ほどの DOT レポートにおける解説です。これによると、約 60kWh の電池容量を搭載している EV
(例えば日産 Leaf +)の場合、家庭のコンセント(アメリカは電圧 120V)では満充電に 40 ~ 50 時間もかかってしまいます。電気工事を行い Level 2 と呼ばれている 240V 級の直流充電にすると 4 ~ 10 時間で満充電となるため、夜間に充電が完了します。

図 5:充電の出力と満充電に要する時間

一方、長距離走行する際に使うことになる公共の急速充電器の大半は 50kW であるため、80%までの充電を前提にすると 30 分~ 1 時間近くかかります。テスラやポルシェなど一部のメーカーが提供を始めている超高出力型の急速充電器は 150kW を超えますので、この充電器を使えば 20 分程度で 80%まで充電することができます。
EV の充電がどの程度 “ 急速 ” であるべきかについては第 36 回においても解説しましたが、急速充電器の出力が上がれば上がるほど充電器が高価になるだけでなく、支払うべき電力の基本料金がべらぼうに上がります。また、充電ケーブルが太くなり充電する際の取り回しも大変になります。更に、EV への充電のスピードをコントロールするのは充電器ではなくクルマ本体ですので充電器の出力が大きいからといって全ての EV の充電時間が短くなるわけではありません。
(図 6)は全米において充電ステーションサービスを展開している EVgo が取りまとめたレポートからの抜粋ですが、最新の EV であっても 150kW を超える超高出力充電に対応した車種はまだ少ないことがわかります。

図 6:主要なEV と最大充電レート(出典:EVgo レポートより)

更に悩ましいのは急速充電器が使用される頻度です(。図 7)は前述の DOT レポートに掲載されているものですが、日本と比べて長距離走行する人が多そうなアメリカであっても一回の移動距離が 31 マイル(=約 50㎞)以上となるケースはたった 4.9%であり、95%の移動は30 マイル以下という調査結果が出ています。すなわち、極めて高価な超高出力型の急速充電器を数多く設置しても、滅多に使われないために稼働率が上がらず採算が取れないという結果になりかねないのです。


図 7:公共充電サービス会社のアプリ(上:EVgo、下:electrify america)

乱立するアプリと決済システムにどう対応するか?

ここからは 5 月 11 日に The Verge 掲載された “EV Charging in the US is broken‒ Can Joe Biden fix it?”(=崩壊しているアメリカの EV 充電環境をバイデン大統領は本当に修復できるのか?)という記事を参照していきます。
記事の冒頭ではAaron Fisher という男性が祖母の 90 歳の誕生会に出席するために BMW i3 を借りてニューヨーク市からコネチカット州ハートフォードまで移動した 2 年前の体験記が綴られています。通常では 3 時間程度で到着するはずが 7 時間もかかってしまったとのことで、彼は以下のように述べています。
EV 充電の仕組みがバラバラであるため、充電器の探索、決済、問い合わせ、走行経路の全ての問題に直面した。
EV を充電したいだけなのに、なぜ生年月日、メールアドレス、氏名を提供し、個人情報の取り扱いに関する規約に署名する必要があるのか、ガソリンスタンドで給油する時にはそんなことは必要なかったはずだ。

充電器の探索に苦労したのは、公共充電器が有料駐車場などの分かりにくいところにあることが理由ですが、個人情報を提供しないとE V充電ができないと述べているのは公共充電サービス会社ごとに専用のアプリが用意されているからです(図 7)。実際に全米で公共充電サービスを提供しているEVgoや Electrify America も専用のアプリを用意し、各種割引サービスなどを提供することで自社サービスへの抱え込みを狙っています。

ところが最新の EV には充電プラグを差し込むと自動的に充電量に応じて充電料金を決済する Plug & Charge という機能が搭載されるようになっています。Plug & Charge には OCPP や ISO15118 といった規格がありますが、OCPP2.0 は ISO15118 にも準拠しているようなので車両と充電器の双方が OCPP2.0 に対応しているとベストです。前回ご紹介したメルセデスベンツの EQS はISO15118 に準拠する予定であるため、全米の 90%の公共充電ステーションにおいてアプリなしのPlug & Charge ができるそうです。ただ、VW の ID.4 やシボレーの Bolt EUV にはこの機能が搭載される予定はないとのことで記事ではなぜなのか理解に苦しむと述べられています。

政府が補助対象とする充電器には どこまで “ 公共性” が求められるか?

冒頭にお伝えした通り、バイデン政権は150 億ドルを投入して 2030 年までに全米に50 万基の充電インフラを整備すると表明したわけですが、政府が補助対象とする充電器にどのような条件を付けるのかは明らかになっていません。The Verge の記事では、テスラユーザーに限って利用を認めている Tesla Supercharger やアマゾンと提携している EV ベンチャーの Rivian が 2023 年までに整備しようとしている 3,500 基の急速充電器を例に挙げ、自動車メーカーがユーザー抱え込みのために設置した急速充電器に対して公的補助は行うべきではなく、バイデン政権としてはそれを認めないだろうと述べています。

政府が “ 公共性 ” が担保されている充電器のみを補助対象とし、それ以外を補助対象から排除することは理想的ではありますが、現実的には難しい問題をはらみます。公道の路肩に設置されていてパーキングメーターのように現金やクレジットカードで利用できる場合は確実に “ 公共性 ” が担保されていると言えますが、有料駐車場の敷地内、集合住宅の敷地内、ショッピングモールやレストランの専用駐車場内に置かれている場合はどうでしょうか。お金を払わないと敷地内に入れない、居住者や来訪者でないと敷地内に入れないとなると “ 公共性 ” があると言えるのでしょうか。また、日本では自動車ディーラーの敷地内に数多くの急速充電器が設置されていますが、乗っている EV とは異なるメーカーのディーラーの敷地内に充電しに行くことは躊躇します。更に、EVgo や Electrify America のような公共充電サービス事業者が設置する充電器は “ 公共 ” ではありますが、会員を抱え込もうと競争し合っています。もし特定の事業者のみが補助を多く受けることになれば市場をゆがませることになります。

図 8:公共充電サービスEVgo の公共充電スタンド(出典:EVgo のレポートより)

このように EV 充電インフラには①どういった場所に設置されるのが理想なのか、②どの程度まで急速であるべきか、③民間の公共充電サービスとしてどこまでの “ 抱え込み ” を認めるべきか、④自動車メーカーが自社の EV の魅力を高めるために行う充電インフラ整備

に国は支援すべきか、⑤ “ 公共性 ” が担保された公共充電器とはどういう条件を満たしたものなのかなど、非常に難しい問題をはらんでいるのです。
今回の記事では、アメリカにおける EV 充電インフラに関する現状と課題及び政府の方針についてご紹介してきましたが、改めて充電インフラ整備の難しさについてご理解いただけたかと思います。

日本では 2013 年に経済産業省が充電器補助に約 1,000 億円の予算を計上し、補助率を1 / 2 から 2 / 3 引き上げたことで一気に充電器が設置されました。しかし、補助された充電器の中には多くの人がアクセスしにくい場所に置かれたものも多く、稼働率が上がらないまま最終的に撤去されたものも少なくないと聞きます。
この度、カーボンニュートラルの実現に向けて日本でもEVや充電インフラ整備を強化しようという機運が高まっています。国内外の事例を参考にしながら是非とも持続可能な充電インフラが整備される方向へとつなげてほしいものです。

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