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胎動する次世代ビークルの世界「自動運転を巡るTeslaとWaymo」の対立

月刊ITV 2021年4月号

発行:令和3年4月1日
発行所:(株)日新(HP)
執筆:大島春行・大西徳・伊藤慎介・井上元・岡雅夫・佐原輝夫・鈴木純子・中田信哉・西襄二・宮代陽之・谷田裕子
表紙・レイアウト:望月満
記事&編集:横路美亀雄・於久田幸雄

2 月23 日、トヨタ自動車が静岡県裾野市に建設する“ウーブン・シティ” の地鎮祭が行われ、本格的な建設工事が開始されました。ようやく日本でも本格的なスマートシティの建設が始まったことは嬉しい限りですが、先行するシンガポールでは 2023 年からの入居開始を目指して42,000 世帯が居住できるスマートシティの建設が着々と進められています。
シンガポールのスマートシティTengah は民間ではなく政府の住宅開発庁が主導して進めているプロジェクトで、イノベーション拠点のあるシンガポール西部のJurong地区に建設されます。このスマートシティの売りは “ 自然との共生 ” であり、自動車のない “Car-free” の中心市街地や森の中に住む感覚を味わえる”Forest Hill District“ などが設けられるとのことです。Car- free といっても実際には道路を地下に通す形になっており、完全な歩車分離を実現することで地上を歩行者、自転車、憩いの場に活用する計画のようです。
熱帯のシンガポールにおいて自転車がどこまで現実的なんだろうかと思ったりしますが、ハイテクのシンガポールが自然との共生を目指し、自然豊かな富士山のふもとでトヨタ自動車がハイテクのスマートシティを目指すというのが何とも不思議で、これこそが究極の「隣の芝」なのかもと思った次第です。


Tengahの中心市街地では自動車は地下の道路を通過し、地上は歩行者・自転車などに開放される

さて、第 41 回の胎動する次世代ビークルの世界では自動運転を巡る Tesla と Waymo の対立を取り上げたいと思います。
新大統領に就任したバイデン氏は就任早々にパリ協定に復帰し、温暖化への取り組みに対する足並みがそろいました。また、温暖化対策と言えば EV(電気自動車)シフトという相場観が形成されつつあり、今年に入ってから EV(電気自動車)に関する報道が圧倒的に増えています。EV には過去に 4 回のブームがありましたが、ここにきて第 5 次 EV ブームが到来しているように思います。(参考:図 1)


EVブームの歴史

近年の EV ブームにおいて中心的な存在となっているのが Tesla です。過去には何度も苦境に陥ってきた同社ですが、モデル 3 の量産化に成功し、昨年 1 月からは中国で現地生産されたモデル3の販売が開始されたことで勢いを増しています。実際に 2021 年 1 月と 2 月において Tesla の Model 3 と Model Y は中国の電気自動車市場の 13%のシェアを獲得し、昨年の売上は一昨年の 2 倍となる$60. 6 億ドル=約 6600 億円を記録しています。これは世界における Tesla の売上の 21%に相当します。

EV の分野では絶好調の Tesla ですが、実は自動運転の分野では追い込まれつつあります。先行するグーグル系 Waymo との対立もそうですが、規制当局からもにらまれつつあります。今回は自動運転の切り口から Tesla とWaymo のスタンスの違いをご紹介したいと思います。

Teslaの自動運転との明確な差別化を打ち出したWaymo

今年の 1 月 6 日にグーグル系 Waymo は自社の自動運転について “self-driving” という表現を一切使わないこととし、今後は ”fully autonomous driving” の呼称に統一すると表明しました。日本語ではどちらも自動運転として訳されていますし、英語圏においてもほぼ同じような意味で使われている印象ですが、Waymo では self-driving をレベル 1 ~ 3 の運転支援システムのことを指す用語として位置づけ、ドライバーによる介入を必要としないレベル 4 ~ 5 の完全自動運転のことを fully autonomous driving と位置付けることにしたようです(図 2)。詳しくは後ほど解説しますが、Waymo が自動運転の表現について再定義を行った背景には Tesla のマスク CEO が2021 年中に完全自動運転である “Full Self- driving(FSD)” の機能を搭載したソフトウェアアップデートを提供すると宣言していることがあります。


図2:グーグル系 Waymo は自社の自動運転をSelf-driving とは呼ばないと宣言

また、Waymo の CEO である Krafcik 氏は雑誌へのインタビューにおいて Tesla の自動運転技術を非難しています。運転支援システムの改善を続けることでいずれは完全自動運転を実現できるというのは妄想だとしたうえで、現在のテスラの戦略のままでは完全自動運転は絶対に実現しないと述べています。
実は、2010 年代から自動運転に取り組んできた Google / Waymo でも当初は運転支援システムを改善するところから完全自動運転の実現を目指したようです。しかし、自動運転システムがある程度問題なく稼働していることが分かるとドライバーはあっという間にシステムを信用してしまい、携帯を見る、化粧をするなどの行為をするようになってクルマの運転を監視しなくなってしまうことが分かりました。すなわち、一般のドライバーは運転支援システムの完成度が高ければ高いほど運転の注意力がより散漫になってしまい、いざというときに運転に介入できなくなってしまうことが明らかになったというのです。そのため、Google / Waymo のチームは戦略を大転換させ、一般のドライバーによる運転介入を一切辞めて、訓練されたプロのドライバーが運転席に座る “ 自動運転タクシーサービス(ロボタクシー)” を実現させる方向へと切り替えました。

実際に Waymo はロボタクシーのサービスである Waymo One を立ち上げ、2019 年10 月よりアリゾナ州フェニックスにおいて会員限定でのサービスを開始しています。また、昨年 10 月にはこのサービスを一般客に開放しています。更に、今年の 2 月 17 日にはサンフランシスコ市内において従業員を対象にしたWaymo One の試験的サービスを開始しています。


図3:サンフランシスコ市内でロボタクシーの試験的サービスを開始したWaymo

自動運転によって他の EV との差別化を目指すTesla

自動運転の実用化=ロボタクシーの実現と割り切った Waymo に対して Tesla は運転支援 システムの延長線上に完全自動運転があるというスタンスを貫いています。
Tesla のマスクCEO は 2019 年の段階で、2020 年末頃には完全自動運転= Full Self- driving(FSD)のソフトウェアアップデートを提供できるとツイートしています。そして、多少の遅れは生じていますが 2021 年中には実現することをあきらめていない様子です。

なぜ Tesla のマスク氏が FSD にこだわるかというと、それによって Tesla の EV の価値が飛躍的に向上するからです。実際に同氏はこの FSD が搭載されることで Tesla の EV は従来の 5 倍以上の価値を持つようになると豪語しています。
マスク氏は、FSD が搭載された Tesla 車の所有者は運転の時間に仕事やゲームができることで生産性の向上や快適性の向上が実現すると述べています。また、自家用車の多くは駐車されている時間の方が長いですが、FSD が搭載された Tesla 車は所有者が使わない時間帯にロボタクシーとして稼働し、Uber や Lyft のように他のお客を運べるようになるため、使わない時にも “ お金を稼ぐ ”EV になると主張しています。これによって週 12 時間の稼働率が週 60 時間へと大幅に増加し、従来の 5 倍以上の価値を持つというわけです。週 12 時間ですと稼働率は 1 / 14 =約 7.1%ですが、FSD 搭載の Tesla 車は 35.7%まで飛躍的に向上することになります。

マスク氏の戦略に沿う形で昨年 10 月 21 日には FSD のベータ版がリリースされています。このアップデートは $10,000 =約 108 万円で提供されていますのでソフトウェアのパッケージとしてはかなり高価です。しかし、2 月の時点で 1000 人程度が既に導入しており、Tesla としては更に多くのモニターを募集していく意向です(参考:図 4)。ただ、各種報

道によるとテスラの FSD の本格的リリースがいつになるのかは未定のようです。


図4:昨年 10 月にベータ版がリリースされた Tesla のFSD ソフトウェアアップデート

Tesla の FSD に対する向かい風

FSD のリリースによってソフトウェアアップデートやロボタクシーという新たな収益源を確保し、更に売り上げ
を伸ばそうとしているTesla ですが、自動運転に関しては強い向かい風が吹き始めています。3 月 17 日にはミシガン州において運転支援システム Autopilot が作動中のTesla 車がパトカーに追突するという事故が起きました(図 5)。また、これに先んじてデトロイトで起きた Tesla の衝突事故をきっかけとして米 NHTSA(運輸省道路交通安全局)は Tesla 車が絡んだ 23 件の衝突事故を分析するために特別チームを立ち上げています。


図5:3 月17 日にミシガン州でAutopilot 起動中のTesla がパトカーに追突

これらに加えて Tesla を追い込むことになりそうなのが、米 NTSB(国家運輸安全委員会)が 2 月 1 日に発出した文書です( 図 6)。NTSBとは重大な航空事故、鉄道事故、交通事故などの際に原因究明調査を行うとともに必要となる対策を当局に求める組織であり、日本における運輸安全委員会(JTSB)に相当します。


図6:2 月1 日に発出された米 NTSB の文書

NTSB が発出したこの文書は、過去に起きた 6 件の自動運転並びに運転支援システムに関する重大事故の調査結果が根拠となっているのですが、6 件のうちの 4 件が Tesla のAutopilot が原因となった事故です。ちなみに他の 2 件のうちの 1 件は Uber の自動運転車が歩行者を引いて死亡させた 2018 年のアリゾナ州での人身事故です。この事故は世界中で報道されましたのでご存知の方も多いかと思います。

Tesla の Autopilot が起こした 4 件の重大事故は次の通りとなります。

〇 2016年5 月にフロリダ州 Williston で起きた事故
2016 年 5 月 7 日に高速道路を走行中のTesla Model S が対向車線から左折しようとしていたトレーラーの右側面に衝突。Tesla 車は窓ガラスや屋根を吹き飛ばしながらトラックの下を潜り抜けて走り続け、フェンスを越えて電柱にぶつかったのちに民家の車道の近くに停車。Tesla 車に乗っていたドライバーは死亡。Tesla 車は Autopilot による走行中だった。

〇 2018 年カリフォルニア州 Culver Cityで起きた事故
2018 年 1 月 22 日に高速道路の優先レーン(HOV レーン)を走行中の Tesla Model S が交通事故のために同レーンに停車していた消防車を避けることなく突っ込んで衝突。Tesla 車の前を走行していたクルマは消防車をよけるために車線変更していたが、Tesla 車は追随することなく加速したまま消防車に衝突。Tesla 車のドライバーにけがはなく、消防車には乗員がいなかったため負傷者は発生せず。Tesla 車はAutopilot による走行中だった。

〇 2019 年フロリダ州 Delray Beach で 起きた事故
2019 年 3 月 1 日に高速道路を走行中のTesla Model 3 は、走行車線を横切り左折しながら反対車線へと侵入しようとしているトレーラーがいるにもかかわらず、減速や避けることのないままトラックの左側面に衝突。窓ガラスや屋根を吹き飛ばしながらトラックの下を潜り抜け、しばらく走行したのちに中央分離帯で停車。Tesla 車のドライバーは死亡。Tesla 車は Autopilot による走行中だった。

〇 2018 年カリフォルニア州 Mountain View で起きた事故
2018 年 3 月 22 日に高速道路を走行中のTesla Model X は車線が切り替わる部分にある三角の進入禁止ゾーンに侵入し、衝突衝撃緩衝具に衝突。反時計回りに回転した車両は前方と後方の 2 つに割れたのち、他の 2 つの車両と衝突。Tesla 車のバッテリーは破裂し、火災が発生。Tesla 車のドライバーは病院に運ばれたが死亡。衝突した他の車両のドライバーのうち1人は軽傷、他の1人は負傷なし。Tesla 車は Autopilot による走行中であり、ドライバーは事故時にスマホゲーム中だった。

このように事故車の写真や事故の経緯を見ると、Tesla の Autopilot の信頼性には懸念があると感じます。実際に、NTSB もドライバーが運転に関与しない形でAutopilot に依存している状態を問題視しています。

NTSBはNHTSAに対して規制強化を要求

実は今回の NTSB による文書は、規制当局である NHTSA が自動運転の運転支援システムに対して規制強化するように求めることが狙いです。文書において NTSB は「過去の重大事故を分析した結果、運転支援システムの起動時にドライバーは注意散漫となっており、運転の監視や走行環境の確認を怠っていた」と述べています。また、「一般的に人間は監視者としての役割が苦手であり、自動制御が一定の間に問題なく作動していることが分かるとその状態に満足してしまい、緊急事態に適切に反応できなくなってしまう」とも述べています。この主張は前述の Waymo の CEO の意見に重なります。

加えて「、NHTSA が安全を担保するための適切な措置を取らなかったために運転設計領域(ODD)を超えて運転支援システムを使うことを Tesla に許してしまった」と、Tesla を名指ししながら NHTSA を批判しています。ちなみに、運転設計領域= Operational Design Domain とは自動運転システムが正常に作動する走行環境を意味するもので、速度、天候、道路環境、信号の有無、歩行者の存在などのODD を設定し、自動運転システムはODD が成立する条件においてのみ使用すべきという自動運転に関する安全要件の基礎となる概念です。なお、NTSB の指摘に対してTesla は「運転設計領域
(ODD)は Autopilot のようなレベル2の自動運転システムには当てはまらない。なぜならばドライバーがAutopilot を使うべき適切な環境を選択するからだ」と反論しています。

NTSB はTesla のFSD に対しても警告しています。「NHTSA が適切な規制を行わないため、運転支援システムが適切に機能しない走行環境(ODD 領域外)でもシステムを使用してしまう状況を自動車メーカーに許してしまっている。Tesla は完全自動運転(FSD)が可能であると主張する Autopilot のベータ版を最近リリースしたが、これによって同社は適切な監視や報告の必要がない状態で公道走行試験を行っている。このことは公道を走行する他の車両や歩行者・自転車等に対して安全面での大きなリスクを与えかねない」と述べています。

Tesla の Autopilot が数々の重大事故を起こしてきた結果から、NTSB は NHTSA に対して Tesla を厳しく規制するように求めているのです。

TeslaとWaymoの対立から見えてくるもの

自動運転を巡る Tesla と Waymo の対立からは、ものづくりからスタートした Tesla とIT 企業からスタートした Waymo のスタンスの違いがくっきりと見えてきます。Tesla はあくまで高性能の EV を開発・量産し、EV 及び周辺サービスの販売によって収益を上げることをビジネスモデルとしています。ただ、従来の自動車メーカーが車両及び車載器(カーナビなど)の販売のみを収益源としていたのに対して、Tesla は EV だけでなく、太陽光パネル、家庭用蓄電池、充電器といったエネルギー機器やエネルギー関連サービスを手掛けるとともに、今回ご紹介した運転支援システムのソフトウェアの販売などでも収益を上げています。FSD が完成してロボタクシーが可能となった暁には、個人が所有しているTesla 車のライドシェアのマッチングを行うモビリティサービスを手掛ける可能性もあります(図 7)。

図7:従来の自動メーカーとは異なるTeslaのビジネスモデル

それに対してグーグル系の Waymo はあくまでサービスに徹するスタンスを貫いています。グーグル自体はスマホのPixel やPC のChromebook などを手掛けていますが、ハードウェアで儲けるためというよりは主戦場である OS やサービスでの支配力を維持するためにハードウェアの開発能力を持ちづけることが真意であると思われます。Waymo 自身もクルマの開発には深く入り込んでいますが、決して自動車メーカーの道を歩むつもりはないものと見受けられます。
今年に入ってから Apple が EV 分野に進出するのではないかという報道が複数出ています。ただ、現状を見ているとスマホやタブレットにおける Google 対Apple の関係と近いのが、Waymo 対Tesla だと感じます。

さて、話を自動運転に戻します。マスク氏としてはAutopilot のソフトウェアアップデートを既販車も含めて世界中の全ての Tesla 車に搭載することで、一台$10,000 のソフトウェアによる巨額の利益を狙っていたのだと思います。しかし、Waymo からは
「Tesla の FSD では絶対に完全自動運転を実現できない」と批判され、NTSB からは「FSD をこのまま放置することは交通安全上の問題であり、しかるべき規制を行うべき」と指摘されていることからマスク氏の構想の実現はかなり厳しいと言わざるを得ません。

NTSB の警告によって NHTSA がどういう動きを取ることになるのか、その結果が自動運転を巡る Tesla と Waymo の対立にどういう影響を与えるのか、今後の動向を引き続き注視していきたいと思います。

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